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日本はアジアのハブになれたのか?

通信キャリアや IX に勤務していたころ、よく「日本をアジアのハブにしよう」と言っていました。

データを整理する機会があったので「実際のところどうなの?」をまとめてみます。

話の背景は文末に回しました。もしご興味あればどうぞ。

パブリックデータから、国際ハブとしての大きさを探る

通信のために事業者が相互接続するとき、検討段階ではどんな事業者がどこにいるかを知っておく必要があります。 接続時・接続後も、たとえば経路数やPOPなど、継続的に情報インプットが必要です。 各種情報がまとまったデータベースとして PeeringDB が有名ですが、そこに登録されている

  • 事業者(AS) 数
  • 事業者(AS) が拠点を持つ国
  • 事業者(AS) が接続するIX がある国

から、「アジア各国で、どれくらいの事業者と接続できそうか」を推測してみます。
( ある事業者がその国に拠点を持っている or その国のIX に接続していれば、「接続できそう」とします )

アジア各国の事業者数 (国際 + 国内)

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見づらいですが、現時点で次のようになっています。 ここには各国内に閉じる事業者も含まれている点に注意ですが、以降、この5ヵ国に注目します。

インド・インドネシアの伸びがすごいですね。

# 事業者数
1 インド 647
2 日本 437
3 シンガポール 427
4 インドネシア 418
5 香港 383

アジア5ヵ国の事業者数 (国際)

ここが本題です。シンガポール・香港は古くからアジアのハブとして機能していました。「これに追いつこう」というのが日本のスタンスでしたが、このデータでは残念ながら、差は縮まってないようですね。

一方、インドへの国際事業者への参入が目立ちます。

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ちなみに、インターネットの中心とされる US を含めると これくらいのスケールになります。

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アジア5ヵ国の事業者数 (国内)

参考までに、国内事業者だけをプロットしてみます。

インド・インドネシアがすごく伸びていますが、増えたのは国内事業者であることがよく分かります。

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「日本をアジアのハブに」の話

企業の枠を超えた、業界全体のスローガンのようなものです。一般に言われているかは分かりませんが、 たとえば US・EU の通信事業者がアジアと接続したいときに「日本につなごう」「日本に拠点を持とう」と 思ってもらえるようなエコシステムを作ろう、という意味です。

逆もしかりで、アジアの通信事業者がUS・EU と接続したいときに 「日本には事業者が集まっているので、足を伸ばす・拠点を持つ価値がある」と思ってもらいたい。

インターネットな BGP を運用している事業者が言う「接続したい」は、「物理的に直接つないでトラフィック交換したい」です。 Gbps ~ Tbps のトラフィックを持つ事業者にとって、間に別の事業者が挟まっているのは割に合いません。 特定の事業者と大量トラフィックを交換したい場合、直接接続することで

  • トータル、コストが下がる
  • ビジネス面での交渉・技術的な調整・トラフィック制御がしやすくなる
  • 遅延の解消

のようなメリットが見込めます。

そう考える国際事業者に対して 日本がアジアのハブとして機能することは、国内事業者にとってもメリットがあります。 「少しの投資で国際事業者と接続できる」などです。日本であれば簡単にクラウド事業者と接続できますが、もし国内で接続できなかったらどうでしょう? 影響は通信業界だけではなく、自国に国際ハブがあることは日本全体にとっても経済面・ 国際競争の面で有利にはたらきます。

このような背景があって通信事業者のひとたちは「日本をアジアのハブにしよう」と言っていました。 検索してみると、かれこれ20年 にもなるようです。

立地的に有利とされていたはずが…

この文脈でよく言われるのが海底ケーブルの陸揚げです。「USから見てアジアへの経路上にあるので、中継点としては最適」とされていました。

f:id:codeout:20210614015315p:plain https://www.submarinecablemap.com/

しかし長年国際ハブになりきれない点について

  • 言語バリアーがあって、消費者は英語コンテンツをあまり見ない
  • シンガポール・香港に比べ、通信政策・法制度・税制度が行き届いていない
  • 国内キャリアの競争戦略

いろんな意見を聞きますが、個人的にはよく分かっていません。

別のグラフを出しますが、これは事業者の IX 接続帯域合計です。日本は、IX 先進国であるドイツ・オランダ・英国に近いレベルで伸びています。

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次にヨーロッパ各国 + 日本の国際事業者数推移です。

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通信インフラが成熟しているドイツ・オランダ・英国・日本、各国とも通信政策に力を入れている中、国際ハブの観点ではドイツだけが大きく伸びています。US から見て言語バリアーがなく大西洋ケーブルを多く終端している英国より、ドイツが伸びている点は面白いですね。

トラフィックは重力のように、大きなところに事業者が集まる傾向がありましたが、ドイツやシンガポールが国際ハブとして活発である点からすると、近年は

といういうことかもしれません。

参考