ものづくりの理想郷 を読んだ
著者の山本さん から頂きました.ありがとうございます.
この本は,平和酒造 という酒蔵が抱えていた組織的な問題をどうやって解決したか,蔵元の視点で書かれている.斜陽の日本酒業界にあって,昔はうまくいっていた
- 蔵(職人たち) が酒を造り,蔵元(経営者) が売るという分業制
- トップダウンで意思決定される硬直した組織
が時代に合わなくなって「さあどうしよう」という苦悩と,「こうすればうまくいった.お酒も売れた」という成功体験が書いてある.
日本酒業界に携わる人はもちろん,日本酒好きの人にオススメの一冊.蔵元視点の本なんてあまり見ないし,バックグラウンドを知って飲む酒は旨いはず.

- 作者: 山本典正
- 出版社/メーカー: dZERO(インプレス)
- 発売日: 2014/12/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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平和酒造
ここ数年いろんな賞を取ったり,メディアに取り上げられることが多くて注目していた.
- IWC Regional Trophy
- SAKE COMPETITION 2014
- WOWOW ドキュメンタリー
- 雑誌,書籍 (なぜかプレイボーイにまで)
- 中田英寿さんがブラジルで手がけたN-Bar に出品
- JAL 国際線ビジネスクラスに搭載
ここまで認知されるようになったのは ホントこの数年だと思う.「なにをしたんだ」というのがずっと疑問で,期待して読んでたんだけどマーケティング / 広報など「売る」ところについてはあまり触れられてなかった.残念.
ただ,「やりたいことをやるために まず認知度を上げる必要があるから,回り道でも名刺代わりになるブランドを持て」というくだりは,なるほどなーと思った.
杜氏ってエンジニアっぽい
「職人気質だった杜氏に,部下をマネージメントし 育成することの重要性をわかってもらうまで5年かかった」「杜氏の持つ技術をマニュアル化する必要があった」「酒造のプロセスを計測 / 数値化し,カンバン方式を取り入れた」という描写がある.
本では経営者側の視点だけれど,エンジニアなら「わかるわー,杜氏の気持ちわかるわー」とニヤニヤして読めると思う.
僕はエンジニアで,最近まで大きな企業で働いていた.「苦労して得たノウハウを共有するモチベーションが湧かない」という気持ちはよくわかる.IT 業界だと,今でこそ「情報発信することが自分の市場価値を高める」という空気感があるけれど,これは「情報の鮮度が長続きしないから,隠しとく意味ないよね」という条件と,OSS のような考え方があればこそ.
杜氏のように腕一本で渡っていける業種で,同業者は職人っぽいやりかたでそれなりにうまくやっている中「自分がマネージメントすれば組織が成熟して,そうすると自分も成長できて市場価値が高まる」とか「情報共有すれば回りまわって自分を助けてくれる」という発想にはなかなか至らない.経営者が懇願しても,行動に移すのに疑問はあったはず.
これまでいろんな葛藤があったんだろうなあと思うと,お会いしたことはないが,もしいつかご一緒できたら,この方とはたぶん旨い酒が飲めると思うな.